人との出会いが、すべてを変える

千葉県館山市・須藤牧場

何もかも、今までのことはすべてがみんな奇跡のような出来事です。
私たち夫婦の牧場が、現在の姿へ変遷してきたことも、当たり前のようで当たり前ではなく、そこにはいつも出会いがありました。

一人の紳士伍代正樹氏との出会いは、それから先の数々の奇跡のはじまりでした。
細くすらっとした長身の持ち主で、瞳の奥はやさしく、時にいたずらっぽくもありました。
その伍代氏の呼びかけで、私たちの地域交流牧場全国連絡会は発足しました。
共に日本に酪農教育ファームを作り上げようと立ち上がり、それこそが自身のライフワークと言い切っていた彼との、あまりにも速い別れは私たち連絡会の同士にとって、衝撃以外の何物でもなくそれから先の歩み方に大きな不安を抱いたものです。

それでも、全国の志を共にした仲間たちを支えに、私たちは強く歩み続けてきました。
連絡会が発足する以前から日本中の牧場のあちこちで交流活動は展開されていましたが、それら点としての存在だった牧場が線につながり、そして面へと広がりを見せたのは、やはり、同じ思いを持つ人との出会いがあったからだと思います。
また、牧場を訪れる子供たちの笑顔に出会えたことで、活動の深まりがあり、酪農家としての自信と誇り、勇気をたくさん頂いてきました。

これまで、様々な活動をし、牧場経営を展開してきた私の牧場は千葉県館山市の郊外に位置します。
現在、総飼養頭数乳牛150頭、馬などの触れ合い動物は10種類です。
労働力は4人で、家族労働が中心の普通の酪農家です。
しかしながら、自然を求める時代の流れから、牧場を訪れる方々が非常に増え、要望に応える形で体験活動を受け入れてきました。
普通の酪農家と違うのは、この「人との出会い」を拒むことなく、ほとんど全て受け入れてきた点かもしれません。
先程述べた伍代氏との出会いもそうですが、実はその前にもある家族との出会いがあり、私が作るよりも早く、須藤牧場のパンフレットを勝手に製作し印刷して盛り上げてくれた方もおります。
そういった方々に後押しされながら、クリスマスイルミネーションで牧場を飾ったり、イベントを催したりと、できる範囲での活動をしてきました。

何事も、一歩踏み出したことで、次の一歩、次の一歩へと繋がるものです。
少しずつのつもりで10数年、「人との出会い」を大切にしてきました。
そして平成18年に牧場での生活や体験受け入れの経験を2冊の絵本、牧場のおはなし「モモコ」「いのち」として自費出版するにいたりました。

「モモコ」は母親の愛情の大切さ、母娘の絆を描いた大人の女性へ向けた絵本です。「いのち」は文字通り「命の大切さ」を訴えています。

さて、この2冊の絵本を地元で紹介したところ、この絵本に賛同する一般の方々があれよあれよと言う間に集まって、幼稚園等で読み聞かせをする「モモコ読み聞かせ隊」が発足、幼稚園での経験を踏んで、地元の文化ホールで開催される「あわ夢まつり」へ参加もしました。
大きなホールでの読み聞かせは、絵本の絵をプロジェクターで映し出し、メンバー一人一人が出演動物になりきって演じるという大イベントになりました。
もちろん、メンバーは何度も牧場内の体験工房に集合し、打ち合わせと練習の日々が続きました。
年齢も性別も様々なモモコ読み聞かせ隊のメンバーは、それぞれが特技を活かしてボランテアでの活動でしたが、いつしか思いは一緒になり、子供たちへ愛情たっぷりのメッセージを送ることに成功しました。
握手と涙、感動の公演となりました。19年7月のことです。

それから一ヵ月後、絵本の中の主人公であるおでこに花の模様のある牛、私が考えたキャラクター「モモコ」が、実際に当牧場で産まれてきたのです。
メスの牛「モモコ」。人との出会いは、すべてを変えて、たくさんの人の思いは、伝わる。そう実感した出来事でした。
平成20年にも「あわ夢まつり」に参加し、今度は続「モモコ」として新しい物語を披露しました。

また、先ほど文中に出てきた体験工房は「ミルクキッチン」と名づけられた元牛舎です。
この工房内では乳製品などの体験をしますが、こちらも訪れてくる方々の多さに、改築してしまったものです。
たくさんの人と出会い、笑いと感動、勇気をいただくことで牧場は生かされてきました。
現在では新たに羊毛クラフト体験構想が展開しています。これもまた羊毛クラフトなどの手芸を好んだ仲間が自然と集まって、油抜きからマスコット制作まで連日盛り上がっています。
新たにクラブも立ち上がります。

このように、「人との出会いが、すべてを変える」のです。
人生のきっと半分をもう生きただろうと思われる最近は、私たち酪農家との出会いが、出会った子供たちに良い影響を与えられるようにと、考えることが多くなりました。
人は人を変えられるのです。
365日休むことなく働いている私たち酪農家は、説得力のあるその言葉と経験で、未来ある子供たちに熱いメッセージを送ることができます。

訪れてくれた人々に支えられ、育てられた牧場です。今後は訪れてくれる子供たちに、力強く生き抜く気力を注ぐことの出来る牧場でありたいです。