子供が育つ酪農体験

地域交流牧場全国連絡会のますますの発展を願って

岩手県岩手郡葛巻町・くずまき高原牧場

酪農教育ファームの活動は、酪農の持つ多面的な機能を、消費者との交流を通じて理解していただきたいという生産者の思いから始まりました。とりわけ、食料を生産する使命を持つ牧場で命をつなぐ体験に触れることで、食べ物や動物、命そのものを大切にする心を学べる教育的効果に注目してきました。
食料の多くを海外に依存する日本では、消費者が一次産業に触れる場が非常に少なかったことから、私たちは牧場を通年開放し、子どもからお年寄り、さらには、障害をもった方々など、誰もが酪農を身近に体感できる体制を整え活動を続けてきました。この取り組みの過程で、くずまき高原牧場を代表する酪農体験学習の一つ「スノーワンダーランド」が誕生しました。

スノーワンダーランドは、葛巻町の厳寒期(1月5日~18日)に2週間、全国の児童生徒30名が酪農体験や自然体験、地域酪農家宅へのホームステイを通じて、命の大切さや自然のすばらしさを学ぶ企画です。
期間中、子ども達は朝6時に起床し、7時からの仔牛のお世話が日課です。
朝の気温は氷点下25度に達した日もありました。その他に、牧場の雪原で動物たちの足跡を追いかけ、冬の動物の生態を観察する活動や、2泊3日の酪農ホームステイ、雪塊を使ったアラスカ民族の住居・イグルーを作り、そこで体を寄せ合って2晩を過ごすという過酷なプログラムもあります。
活動2日目になると親元を離れた寂しさからホームシックで泣き出す児童もいます。それでも、一人の脱落者もなく2週間を過ごせるのは、活動を支えるスタッフや酪農経営者ら地元の人々との触れあいがあるからです。
厳しい環境だからこそ子ども達は、互いに協調しあい仲間の大切さに気づきます。おやつやジュースなど間食で空腹を満たすことの許されない生活だからこそ、一日3食のありがたさを実感します。
この活動では、はじめ牛乳が飲めなかった児童が、期間の半ばを過ぎて、自発に飲み始めることがしばしばあります。これは酪農家との触れあいと毎朝の仔牛の世話があってのことです。
その子どもは決して「おいしい」とは言いません。しかし、「葛巻の牛乳なら飲める」と言います。児童は体験を通じて、酪農家の思いや乳牛の運命を知り、牛乳を心で飲むようになったのです。
最終日の退村式では、子ども達は目に溜めた涙を必死でこらえながら、「来年も絶対来るね」と約束を交わし、別れを惜しみます。

当事業は、決して儲かるものではありません。しかし、子ども達のいきいきとした笑顔や純粋な涙を見ると、来年も再来年も迎えてあげなければと思います。
ここで体験した子ども達が、いつか大人になったときに、また、来てくれるかもしれない。今度は、一人ではなく家族を連れて。
今は、そのために未来へ投資をしているのだと考えれば、これほど夢のある活動は、他にないと思っています。

当初は、牛飼いの一次産業だけでしたが、牧場の持つ多面的な機能を最大限に生かし、乳製品加工の二次、宿泊施設などの三次産業と発展してきました。現在では、年間30万人以上の来場者があり、うち2万5千人以上(平成19年度)の方々が牧場学習を体験しています。酪農のすばらしさ、そして酪農を支える山村の豊かさを知って欲しいとの思いから始まった酪農教育ファーム活動が、私たち生産者と消費者の交流を拡大し、一度は行ってみたい牧場、行かなければならない牧場へと発展を続けています。
酪農教育ファームは、牧場の魅力を発信する役割以外にも、町全体の交流人口増加という地域活性化にも大きく寄与するようになりました。

今後とも地域交流牧場全国連絡会に携わる方々が協力され、畜産理解のための様々な活動が、生産者と消費者の交流にとってなくてはならない存在として、ますます発展することを願っております。


くずまき高原牧場
葛巻町長 鈴木重男